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メディアな場所を拵える 工夫舎店主 「根来正樹」さん

私の周りでは、ある本屋さんの話題で持ちきりだった。
お店の名前は「工夫舎」。
琴芝商店街通りの一角に店舗を構えている。

合同会社「こしらえる」代表
工夫舎店主 根来正樹ねごろまさきさん。
お店のことも気になるが、お店を作った人物にとても興味が湧いた。

目次

たくさんの本に触れて


宇部市で生まれ育ち、高校時代の恩師の勧めで選んだ進路は消防士。
特殊な勤務時間に合わせた生活の中で図書館に通うことが習慣となり、ここで沢山の本に触れる。
当時はジャンルを問わず、とにかくなんでも読んでいたそう。
この経験が、工夫舎を本屋さんにしたきっかけになった。
消防士として日々働く中で、海外での活動を考えるようになった根来さんは、青年海外協力隊への参加を決意し、選考に合格する。
準備のために半年ほどフィリピンへの語学留学へ行き、帰国後に半年ほど富士山の山小屋でのアルバイトをして過ごすが、派遣予定地の情勢不安から青年海外協力隊としての活動はできなかった。
どうしたものかと考えた根来さんは、旅に出ることにした。

動く家との旅

「家はなぜ動かないのだろうか」という疑問を抱いていた根来さんは、実際に動く家を自分で作って旅に出ることにした。
軽トラックの荷台に乗る大きさの“家”を作るために、東京にある工房へ向かった。
その工房で、工具の使い方から教わり、工房の仲間たちと協力して家を完成させた。
全国津々浦々を自作の動く家で旅に出たが、どこに行っても“家”と一緒だと旅をしている実感や冒険感が生まれなかった。
キリのいいところで旅を終え、一度地元でゆっくりと考えることにした。

面白いと思ったので

工房の仲間たちから「動く家を並べて一緒に暮らさないか」と誘われ、もう一度東京へと向かう。
場所は東京のとある街にあるシェアハウスの駐車場。
工房の仲間たち、シェアハウスの住人たちとの交流の中で料理を一緒にする機会があり、その流れでカレーイベントに出店することになった。
出品したカレーは好評で、主催者から代官山で新店舗の店長をしてみないかと誘われた。
しかし、これまで飲食店で働いた経験は無く、しかもいきなり店長。
新店舗の店長ということで、お店のコンセプトを決めるところから始まり、お金のやりくり、一緒に働いてくれるスタッフの管理まで全てを任されることになる。
根来さんは考えた末、面白いと思ったので快諾した。

1日の睡眠時間は2時間程度で、お店作りに必要なことを猛勉強した。
人生で一番過酷な修行期間は、お店作りに対する見聞を広げる有意義な経験となった。
海外での活動を考えていた頃から店長就任までの1年間は、時間感覚が狂うほどに濃密だった。

全ての力を注いで挑む

店長を任されたお店が軌道に乗った頃、他のお店作りを手伝いつつ建築関係の夜間学校で学ぶことにした。
独学だけではどうにもならないことがあると感じていたからだ。
学校に通っていたある時、石垣島でのホテル作りにプロジェクトマネージャーとして参加しないかと誘われる。
この頃には知りたいことは学べたと思っていた一方で、まだ学校に通った方がいいのではという葛藤もあったが、このチャンスは逃せないと思い参加を決意する。
これまでの経験や学んだことの全てを注ぎ込んだホテル作りは、実践的な知識や経験を得たことで、自身の大きな成長へと繋がった。

帰って来たい場所

大きな成長と共に、受ける仕事を選ぶことも重要だと感じるようになった根来さんは、合同会社「拵える」を設立した。
社名の由来は、街や生活様式が成長していくお店作りをすることと、未来に残したいものを見出していきたいという想いから。
会社を作ることで、できる仕事の幅が増えた。
石垣島と東京を往復する生活の中で、これまでの活動から得た経験を地元である宇部に還元したいと考えるようになった。
早速宇部での物件探しを始めたが、なかなかいい物件が見つからない。
現在の物件を見つけるまでに1年ほどかかったが、その間に宇部という街に必要なお店ってなんだろうとゆっくり考えることができた。

メディアな場所

根来さんはこの頃「メディアな場所を作りたい」という想いを持っていた。
メディアの意味を調べてみると、「情報伝達を媒介する手段や媒介者」となっていた。
根来さんが考えるメディアとは「一度集めて化学反応を起こし、次の物や場所に移動すること」だと教えてくれた。
人々が集まることで化学反応が起きて、それがあらゆる方向へ無限に広がっていく。
そんな場所が宇部にあったら、ひとりひとりが持っている内側にある世界も集まり、新しいものを生み出せるのではないか。

そんな想いで完成したのが、工夫舎だ。

誰のための何なのか

しかし、なぜ「メディアな場所」として「本屋」と「カフェ」を選び、そして組み合わせたのだろうか。

本屋にした理由としては、様々な知識や世界観を持った人が集まりやすいのは本屋だと考えたからだ。
また、本や出版は根来さんの考えるメディアに必要だと感じたからで、これは根来さんがこれまでたくさんの本を読んできて感じた経験から。
さらに、本屋さんが街から減っていっている現状を寂しく感じていたことも理由のひとつだ。
これらの理由で、本屋が必要だと思った。
そこにカフェを組み合わせたのは、お客様が足を運びやすい場所にしたいという願いを込めている。
自分の考えだけで形にするのではなく、「誰のための何なのか」を考えながら、地域と伴走できるお店づくりを常に目指している。
生活として根付く場所であり、お客様にとっていつか賜物になるお店になってほしいとの目標もある。

そして、メディアな場所として工夫舎は次のステップへ進む。
それは「ブックアパートメント」だ。

ブックアパートメント

工夫舎の奥に四角に区切られた棚が並んでいる。
そこがブックアパートメント、「共有書店」だ。
ひとつの棚を個人や法人を問わず誰にでも貸し出している。
棚はひとつの「お店」になり、借りた人はそこの「店主」となる。
「店主」になると、根来さんがそのお店の屋号が入った木製のプレートを作ってくれる。
好きな本を売ってもいいし、多くの人に読んでもらいたいからと自由に閲覧できるようにしてもいい。
お金のやり取りは現金のみで、工夫舎として決済手数料は取らない。
棚の家賃も毎月2000円〜3500円ほどで、他の場所での同様のサービスと比べるとリーズナブルだ。

物語の語り手を増やす

このブックアパートメントは自己表現の場所であり、人々が内側に秘めているものを展開する場所にしたいという根来さんの想いが込められている。
それぞれの「お店」で生まれる「店主」同士と、来てくれたお客さんも巻き込んだ価値観の交流こそが、根来さんの考えるメディアな場所だ。
そして、唯一無二のここだけの新しい物語の語り手を増やしていくことで、街や文化が大きく変わっていくと考えている。

これからのこと

最後にこれからの話をしてくれた。
現状の工夫舎は、やりたいことの2割しかできておらず、次にやりたいことは出版の機能を持たせること。
街について自由に考えて、面白いと思えることをまとめた小冊子を工夫舎として出版する。
そして合同会社拵えるとしては、「プレイヤー」を育てることに舵を切っていきたいとも話してくれた。
お店をやってみたいと思う「プレイヤー」が、街の声を聞きながら自由と責任を持ってやりたいことを明確にして、それを実現するためのお手伝いをしていく。
まだまだ先の話にはなるが、一歩ずつ進めていきたいと話してくれた。

例えば、工夫舎という大きなフラスコに、ひとりひとりが持っている内側の世界を注ぎ込む、根来さんはそんな人だと感じた。
ここからどんな化学変化が起こり、次にどこへ行くのだろうか。
工夫舎という世界に飛び込んでみてはいかがだろうか。

店舗情報

店舗名 工夫舎 本と展示と喫茶
住所 〒755-0032
山口県宇部市寿町二丁目6-13
営業時間 水 木 金 14:00~21:00
土 日   11:00~18:00
定休日 月、火曜
メール kokyo.koshiraeru@gmail.com
HP https://koshira-eru.com/kufusha
SNS InstagramX(旧Twitter)
取材日 2024年7月19日
駐車場 あり
うべとっぴん https://ube-toppin.com/shop/3585/

※こちらの記事の内容は2024年9月18日現在の情報です。
 記事は内容、金額等変更の可能性があります。
 最新の情報についてはHP等でご確認、または、店舗等にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

山口県宇部市 写真館 Blue Photo Base共同代表。
新天町商店街で写真館を営んでいるカメラマンです。
写真と文字で、あなたに届けます。

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